ジェンダー関連のネット炎上として、杉田水脈衆議院議員が『新潮45』に寄稿した『「LGBT」支援の度が過ぎる』の話題が記憶に新しいところですが、LGBTQ関連を原因としたネット炎上は政治家の発言が発端となるケースが非常に多い一方、企業活動に関連するものは非常に少ないようです。(全く無いわけではないようですが。)
他方、どちらかというとジェンダー関連でも、社会が個人に要求する「男性性」や「女性性」については、ここ2、3年、企業活動に関連してのネット炎上が非常に多いようです。
たとえば、私立大学の医学部入試において、女性が差別的な扱いを受けたことが発覚して問題になったり、「#metoo」に代表されるようなセクシャルハラスメントに対する告発が相次いだりなど、企業活動における「男性性」「女性性」については、非常に多くの現実的な課題が噴出していると考えるべきでしょう。
これは、企業のプロモーション活動においても例外ではありません。
なぜ炎上する? 企業のプロモーションとジェンダーロール
社会が要求する「男性性」「女性性」のことを一般に「ジェンダーロール」と言います。
より具体的に言えば、
「男性/女性はこうあるべきだ」「男性/女性にはこうあってほしい」「男性/女性とはこういうものだ」
というような社会規範や、場合によっては非科学的な根拠を基にした思い込みなどにより決定される男性または女性の社会的役割のことを指す言葉として用いられることが多いでしょう。
ジェンダーロールは時代と共に変化します。
かつては日本でも、女性に対して
「幼にしては父兄に従い,嫁しては夫に従い,夫死しては (老いては) 子に従う」
などということが真顔で言われていた時期もあるようですが、現代においてこんなことを言えば正気を疑われるでしょう。
もちろん、企業プロモーションで、このような露骨な女性差別が肯定されるようなものはありません。(私の知る限り。)
しかしながら、時代と共にどんどん変化していくジェンダーロール像(というか、ジェンダーロールからの解放)を理解しなければ、差別の意図のない差別をしてしまい、結果、炎上を招くという構図が成り立ちます。
本ブログでも前回、ジェンダーロールに関連して炎上に至った直近のケースについて取り上げましたが、そのようなケースは繰り返し発生しています。(以下はその一部です。)
(2015年)
ルミネの“女性応援CM”が炎上──女性をけなす第1話に非難殺到、一方2話目では…… - ねとらぼ
(2016年)
養殖うなぎ(美少女)「養って……」 志布志市が名産のうなぎを擬人化したシュールなPV公開 - ねとらぼ
資生堂「インテグレート」批判受けCM取り下げ 「しんどい生き方助長」「25歳過ぎたら女の子じゃない?」と炎上 - ねとらぼ
(2017年)
「お酒飲みながらしゃぶるのがうみゃあで」 サントリー「コックゥ〜ん!」CMに「下品」「下ネタ」と批判相次ぎ公開中止へ - ねとらぼ
宮城県、壇蜜出演のPR動画を近く削除へ ネットでは「風俗みたい」と批判も - ねとらぼ
さらに2018年に入ると、ジェンダーロール問題をきちんと理解していないと、何が批判されているのかも理解できないというようなケースが発生します。
マジカのcmが不快で嫌いと炎上|旦那の濱田岳が初めて皿洗いするやつ | 最新CM2019虎の巻
ジェンダーロール問題で注目される論点として、「家事分担」は非常に重要なテーマで、「家事は女性がやるもの」という前提に立ち、それを肯定的に描くことが受け手の反発を招くということを、プロモーションの作り手は理解しておかなければなりません。
また、家事と並んで重要なポイントとなるのが「育児」です。
「育児は女性がするもの」という前提に立ち、それを肯定的に描いているという印象を与えてしまえば、批判を招くことになってしまいます。
ムーニーのおむつCMに「ワンオペ育児を賛美しないで」批判⇒ユニ・チャーム「取り下げはせず」本来の意図は? | ハフポスト
ただし、現実的には、「家事」や「育児」を夫婦の共同作業として取り組めている家庭ばかりではないでしょうし、そのような現実を無視して理想的な家庭像ばかり描いていてもクリエイティブとして説得力が無く、共感を得られないというのが実情ではないでしょうか。
そのような課題感に対する、現状での最適解のひとつに挙げられるのが、2018年9月公開のオロナインのCMです。
夫婦そろっての子育てで、不慣れながらも手を赤ん坊をお風呂に入れるお父さんの姿を描いています。
ハンドクリームのCMといえばこれまで「女性の手」に塗るというクリエイティブであったところを、男性の手に塗るという変化を盛り込んだところも瞠目すべき点です。
ジェンダーロール問題を理解するには
ジェンダーロール問題について正しく理解するためには、「禁忌事項を箇条書きで並べて、べからず集を作る」というような方法は全く役に立ちません。
「女性をセクシャルに描いてはダメ」
「育児、家事は男女一緒でなければダメ」
「女性の容姿のことを話題にしてはダメ」
というような禁忌事項を作成したところで、これでは上記した炎上事例を防げないですし、クリエイティブの自由な発想も必要以上に制限してしまうことになるでしょう。
これでは誰も(企業も消費者も社会も)幸せになれません。
では、どうすべきなのか。
その課題は今後も本ブログでは折に触れて考えていきたいと思いますが、実務レベルでの入門書として、下記の書籍が非常にお勧めです。
ジェンダー論を専門とする著者が、プロモーション活動において、ジェンダー(特にジェンダーロール)問題で炎上した事例を開設するだけで無く、ディズニー映画の変遷を分析して、社会がどのようにジェンダーロールに対する認識を変えてきたのかという根本理解につながるような論が、非常に平易に記されています。
企業・団体のプロモーションに関わる全ての人が読むべき本だと思い、お勧めする次第です。
(なお、私は著者と利害関係はありません。)