様々な企業様から、「ネットで自社が炎上したときに、直ぐにプロに相談できる状態を作りたい」というご相談をいただくことがあります。
つまり、万が一炎上した場合に、鎮火させるのを手伝って欲しいというご依頼です。
残念ながら、私はそのようなご依頼は、基本的にお断りしています。
何故か。
ネット炎上した時、すなわち、緊急事態の最中に外部のコンサルタントがいきなり飛び入りで参加しても、力になれることは非常に限られているからです。
それは、どんなコンサルタントでも、どんな会社でも、同じです。
コンサルタントを使いこなすにも社内体制は必要
実際にネット炎上が発生したときのことを想定してみましょう。
社内の誰かが、ネット上で自社関連のネガティブな話題が拡散されていることに気付いたとします。
(たまたま気付いたのかもしれませんし、普段から業務として自社のエゴサーチをしている場合もあるでしょう。)
そのネガティブな話題について、社内の誰に報告すれば良いかのフローが定まっていて、かつ、周知がなされていなければ、発見者は誰に伝えればいいのか分かりません。仮に、上司に相談したとしても、相談された上司も処置に困ってしまいます。
幸い、誰に報告をするのかのフローは決まっていて、発見者がフローに則って報告したとします。
では、その報告された事象に対して、誰がどのような権限において、何を判断すべきなのでしょう?
それが決まっていなければ、報告を受けた担当者は、思い当たる部門の部門長や担当役員などに当たりをつけて相談して回ることになるでしょう。ですが、相談された部門長や担当役員にとっても、果たして自身の判断で対応方針を決めて良いのか、そもそもその判断をするにはどのような事柄を考慮に入れればいいのか、判然としません。
例えばここで、ネット炎上に詳しいというコンサルタントに相談したとしても、そのコンサルタントが提案する内容に妥当性があるのか、どうやって決裁者は判断すれば良いのでしょうか?
そもそもそのコンサルタントは、あなたと同等かそれ以上に、あなたの会社や業界に詳しいのですか?
コンサルタントは実効性のある正しい意見を常に与えてくれるのでしょうか?
もしコンサルタントの意見が正しくなかったことが後に判明したとして、誰が責任を取るのでしょうか?
そのコンサルタントは、ネット炎上には詳しいかもしれませんが、あなたの会社や業界についての十分な見識を持っている可能性は低いです。部外者ですから。
つまり、ネット炎上に詳しいコンサルタントから意見を聴取するだけでなく、そのコンサルタントの言っていることが妥当なのか否かを判断できる体制が社内に無ければ、コンサルタントを使いこなせない可能性が高いのです。
逆に、コンサルタントの言っていることの妥当性を判断できるような体制が社内にあるなら、緊急時にわざわざコンサルタントを呼んでくる必要はありません。コンサルタントの意見を聞くまでもなく、自社内で対処法の判断ができるでしょうから。
このようなことから、「緊急時だけコンサルをアテにする」というのがどれほど危険なことかご理解いただけると思います。
ネット炎上への対処は迅速性が大切
もう一つの問題として、ネット炎上が発生した場合、従来の危機管理広報などとは比べものにならないぐらいに短い時間軸で物事が展開するということが挙げられます。
ある銀行が2015年に炎上したことがあります。
経緯としては、その銀行の某支店の窓口業務を担当していた女性が、店頭で手続きに現れた芸能人の身分証明書のコピーを不正に店外に持ち出していたらしく、それがその女性の娘のTwitterでの発言から発覚して炎上に至りました。
本件の時間の流れとしては、発端となったツイートは午後5時ごろに投稿され、それを見たTwitterユーザーが騒ぎ始めたのが同日の午後6時頃、その件に関して当該銀行が公式に謝罪コメントを発表したのが午後10時頃でした。つまり、発端となったツイートから公式謝罪コメントまでたったの5時間(騒ぎになってからであれば4時間)です。
このような時間軸で展開することを踏まえれば、そもそも社内で誰がどう判断するのかの備えがなければ、コンサルタントが居ようが居まいが確実に対処が後手に回ることになります。
このように、
- 対処の妥当性
- 対処の迅速性
の2点から、「炎上した時には、まずネット炎上に詳しいコンサルタントに聞く」という社内体制の脆弱性、危険性がご理解いただけると思います。
平時から体制を準備しておかなければならない理由は、まさにここにあるのです。
今回は「ネット炎上が起きてしまった」という状況にのみ絞ってお話しましたが、そもそもネット炎上を起こさないようにするためにも、平時からの体制づくりが重要です。
次回は、体制づくりが「ネット炎上を起こさない」ことに資する、というお話をしたいと思います。