ソーシャルメディア時代のリスクマネジメント

ソーシャルメディア関連を専門とするリスクコンサルタントが、企業のリスクマネジメントについて書いています。

【ソーシャルリスクマネジメント体制を作れ!】その3 「ネット炎上に備える体制」で一番大切なこと

前回の【ソーシャルリスクマネジメント体制を作れ!】では、消費者の不満や憤りに対しては、その場しのぎの誤魔化しではなく、真摯に向き合うことが大切だと述べました。

 

では、「真摯に向き合う」とはどういうことでしょうか。

 

例えば、お客様センターに寄せられたクレームに対して誠心誠意謝罪する、というのも「真摯に向き合う」ということに含まれるかもしれません。

ですが、ここで想定しているのは、そのような個別の顧客に対して丁寧に応対するというミクロな話ではありません。いくらクレーム応対が丁寧でも、そのクレームの発生している原因に対して何ら手を打たないようであれば、それは「真摯に向き合う」とは言わない(むしろ、「その場しのぎ」だと言える)のです。

 

つまり、ここで言う「真摯に向き合う」とは、不満や憤りの真の原因を特定して、改善に繋げることを指します。

 

おそらく、ちゃんとした企業であれば、消費者やサプライチェーンから寄せられる不具合やトラブルや不満などの声を、お客様センターや営業部門が集約して、事業側(商品やサービスの企画部門や製造部門など)にフィードバックし、改善を図る体制が構築されていることと思います。その際、お客様センターや営業部門に寄せられた声に対して、全部鵜呑みにしてプライオリティも付けずに改善に取り組むというようなことは、どこの企業でもやらないでしょうし、やるべきでもないでしょう。

集められた声を何らかの改善に活かすのであれば、その「声」の客観性や再現性や内容の重篤性などの様々な観点から評価をして、優先度を判断するはずです。その結果によっては、事業側に伝えられずに終わるものもあるでしょうし、経営課題として早急に取り組むべきというアラート付きで共有されるケースもあるでしょう。

このような改善サイクルの中に、「ネットの声」を含めることが、「ネット炎上に備える体制」で一番大切なことです。

 

もちろん、「ネットの声」をただ集めれば良いということではありません。

集めた声をインプットとして、事業の改善に活かして始めて、「真摯に向き合う」こととなり、「ネット炎上に備える体制」の真価を発揮できることになります。

 

ですが、何故わざわざネットの声を集めなければならないのでしょうか。

声ならば、お客様センターや営業担当が十分に拾ってきているのだから、わざわざこちらから積極的に集めにいかなくても良いのではないか、という疑問が湧きます。

 

隠れた「素」の声を拾えるのがソーシャルメディア

具体的な話をしましょう。

 

顧客ロイヤルティを語る上で、古くから用いられる「グッドマンの法則」という法則があります。

グッドマンの法則ー | 顧客ロイヤルティ協会

 

グッドマンの法則の第一の法則で明らかにされているとおり、顧客は、商品やサービスに不満があってもわざわざ連絡してこない方が多数派なのです。つまり、不満を持ったまま、そっと離脱するのです。

ですが、「わざわざ連絡してこない」人たちが、ソーシャルメディアで不満をつぶやくことはあるでしょう。

つまり、待っているだけでは拾えない顧客の声を拾いに行くことで、従来の体制では顕在化しなかった問題や課題を発見できるということでもあります。

 

このような声に耳をしっかり傾けていれば、もしかしたら避けられたかもしれない炎上(というか、経営危機)の事例があります。

それが、日本マクドナルドのケースです。

 

日本マクドナルドのどん底とV字回復

日本マクドナルドは、2010年代前半に経営の不調が続き、2015年の1月に異物混入問題で大炎上してさらに大きく業績を落としました。

過失も知らんぷり…会見で分かったマクドナルドの企業姿勢|日刊ゲンダイDIGITAL 

 

これは、1回の異物混入で業績に影響を与えるほどの問題になったわけではなく、それまでも度々発生していた同様の問題に十分対処しないまま繰り返し異物混入を繰り返していた結果として、臨界点を超えるような形で湧き上がった大炎上でした。

【炎上】日本マクドナルドが異物混入だらけ!チキンナゲットからビニールなど - NAVER まとめ

これだけ見ると、まるで異物混入ばかりが問題であったように見えますが、実は異物混入に限らず、マクドナルドに対する消費者の不満は様々な形で表出していました。

レジメニューの消えたマクドナルドでポテト単品を注文してみた - ねとらぼ

マクドナルドに立て直しの秘策はあるか 「うるさい」「高い」「まずい」と不満の声 : J-CASTニュース

中川淳一郎さんがジャッジ、愛される企業・叩かれる企業のネット通信簿 | 広報会議デジタル版

 

このような蓄積の末の大炎上であり、経営の悪化であったわけです。

 

日本マクドナルド社もネットの声を無視していたわけではないと思うのですが、それが十分に改善に繋げられることがないままに顧客の不満が溜まっていき、ついに大噴火するのが2015年の大炎上、そして、どん底な業績という一面が存在していたことは間違いありません。

 

しかしながら、その後マクドナルドは姿勢を改めました。

なぜマックは急速に業績回復できたのか? | プレジデントオンライン

記事の中では、代表取締役副社長兼COO(当時)の下平氏の言葉として、

「サラ・カサノバは昨年(2015年)1年間で47都道府県すべてに足を運び、お客様から直接さまざまな声を聞いています。」

と記載しています。全社を挙げて、顧客の声に耳を傾けるようになったわけです。

その後のV字回復は、ビジネスマンであれば多くの方々が記憶されていることと思います。

マクドナルドの復活で見落とされがちな本質 | 企業経営・会計・制度 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準

つまり、「よりお客様にフォーカスしたアクション」に取り組んだ結果としてV字回復を果たしたわけです。

 

もちろん、お客様の声というのは、ネットから得るだけで良いのではありません。問い合わせ窓口であるお客様センターからのインプットも必須ですし、店舗からの吸い上げも必要でしょう。その全てを行うことで始めて、バランスよくインプットすることができるわけです。

 

ネット(だけでなく全てのチャネル)からの声を拾い上げ、その内容を検討し、改善に活かすという全社的な体制を構築・運用することで、顧客の不満の原因を解消し、それがネット上の自社に対する負の蓄積を低減する効果を生んで、ネット炎上の起こりにくい企業体質を作っていくということが大切なのです。

そもそもこれは、「ネット炎上」という特定課題の問題ではなく、事業をいかに健全に運営していくかという広範な問題に対する処方箋でもあります。

 

それでも炎上が起こったら

ネット炎上というのは、どんな企業においても100%防げるものではありません。

ここまでは、炎上の原因になるような事業リスクを潰す、という観点から述べてきましたが、ここからは、「ネット炎上に備える体制」は「ネット炎上が起きてしまった時の対処」にも必要だ、ということをお話しします。

 

ネット炎上が発生した際に最も問題になるのは、「この問題に対して、誰の責任において、どのような対処を、いつするのか」を誰が決めるのか分からない、ということです。

仮にマニュアルがあったとしても、そのマニュアルで想定しているとおりの事象が発生するとも限りませんし、マニュアル自体が古くて使い物にならない可能性もあります。(実際、ネット炎上の傾向はどんどん変化するので、1年前に作ったマニュアルが役に立たないという可能性も生じます。)

 

しかしながら、普段から「ネット炎上に備える体制」を運用し、お客様センターや営業担当からの報告や、ネット上の顧客の声を収集・分析して改善に当たるというサイクルを回していた場合、どのような問題がどの部門の管掌で、他のどの部門との連携で対処に当たるべきなのかの訓練が積まれた状態となっています。

もちろんネット炎上となれば、問題の大きさは普段とは比べものにならないほど大きいでしょう。ですが、普段からの連携があれば、少なくとも管掌部門が不明瞭で対処に困る、などということは発生しません。

言うなれば、普段から小さな問題に対して「真摯に向き合う」ことで、大きな問題が発生した場合の演習を行なっているのと同じ効果が望めるわけです。(しかもその「演習」は、ここまで見てきたとおり、実務としても事業の役に立つわけです。)

 

このように、一石二鳥なのが「ネット炎上に備える体制」なのです。

 

従業員の声も大事なインプット

ここまでは、顧客の声を拾うということにフォーカスして論じてきましたが、次回は、事業側ではなく企業ガバナンスの観点から、従業員の声も大事なインプットであり、労務関連のネット炎上を避ける意味でも注視すべきである、ということをお話ししていきます。

 

「従業員」と「ネット炎上」という言葉を並べると、経営サイドとしては、従業員の素行の悪いネット投稿が元で炎上する、というようなことを連想されるかもしれませんが、「従業員の声」にはもっと大事なことも見出すことができますので、次回ご紹介したいと思います。