ソーシャルメディア時代のリスクマネジメント

ソーシャルメディア関連を専門とするリスクコンサルタントが、企業のリスクマネジメントについて書いています。

「バイトテロ」の話題が流行っているので

「バイトテロ」の復活

飲食店やコンビニエンスストア、飲食品宅配店などのアルバイトスタッフが、業務中に自分たちの悪質な「おふざけ」の様子を写真や動画におさめ、それをソーシャルメディアにアップロードすることが発端となり、ネット炎上に至るケースがあります。

アルバイトスタッフによるこのような行為を「バイトテロ」と呼ぶようになったのは、この類のネット炎上が頻発した2013年からですが、2014年以降は「バイトテロ」はナリを潜めていました。

 

それが2019年に入った途端に、2013年にタイムスリップしたかのように「バイトテロ」によるネット炎上が頻発しており、連日のようにネットやテレビ、新聞などで取り上げられています。

 

このような「バイトテロ」の構造については、徳力基彦さんによる優れた論考が既にあるので、論の重複は避けたいと思います。

くら寿司動画炎上で考える、バイトテロが繰り返されてしまう理由(徳力基彦) - 個人 - Yahoo!ニュース

 

徳力さんの論考でも触れられているとおり、2019年に入ってからのバイトテロについては、様々な意見がネット上でも飛び交っています。

その中でも、企業側の責任を問う声として主だったものは、以下の2パターンでした。

 

  • 教育が不十分だからこんなことが起こるんだ。コストを惜しまずちゃんと教育しろ。
  • アルバイトに対する待遇が悪いからこんなことが起こるんだ。待遇を改善しろ。

私個人としては、この2つの批判は事態の改善に対して一面しか捉えていないように感じます。

職務上、私は企業の側に立って具体的な予防策・解決策を構築する立場にありますので、本稿ではその観点から事態の分析と対策方法について述べていきたいと思います。(社会そのもののあり方を論じても企業の担当者には解決の手がかりにならないので、ここでは論じません。)

 

教育したら防げるのか

まずは、企業の責任を問う声の1つめ。

「教育が不十分だからこんなことが起こるんだ。コストを惜しまずちゃんと教育しろ。」

という意見に妥当性があるのかについて考えていきましょう。

 

この意見を発信している方々は、店舗のアルバイトスタッフの経験はあっても、教育プログラムを企画立案する側に立ったことは無いのではないかと想像します。

私は職務上、多くの企業の危機管理部門や人事部門、フランチャイザーの店舗管理部門の方々から相談をいただくことがありますが、このご時世に教育に未着手な企業などほとんど無いからです。

アルバイトスタッフやテンポラリースタッフをたくさん雇用している企業では、2013年のバイトテロブームの際に課題意識を持ち、何らかの教育に着手しています。

その上で、どの企業においても頭を抱えている課題として、以下のようなことをよく耳にします。

 

  • 現場スタッフ(宅配スタッフや店舗スタッフなど)の入れ替わりが激しいため、教育が行き届かない。(教育を徹底しようとすると手間と金がかかりすぎる。)
  • フランチャイズ展開の場合、フランチャイザー側ではフランチャイジーのアルバイトスタッフのことは全く分からない。入社や退職のタイミングも把握できないので、ガバナンスの効かせようが無い。フランチャイジーのオーナーに「教育してください」と依頼をして、教育のための素材を渡すところまではできるが、どこまで徹底されているかまでは直接管理できない。

つまり、教育しようとしても教育機会を十分に設けられていないのではないか、という問題です。

しかしながら、そもそも問題は教育機会なのでしょうか。

 

もちろん、現場がサボタージュして教育機会を設けていない、ということであれば論外ですが、「職場で写真や動画を撮ってネットに上げるな」という単純至極なことを教えるのに、何時間もかかるということは無いはずです。であれば、問題なのは教育機会よりも、教育効果の方ではないでしょうか。

 

業務手順のような、それを覚えないと作業ができないというようなものなら教育効果が目に見えて確認できます。日々の業務の中でチェックもできますし、できていなければ注意も容易です。

ですが、行動規範のようなものはどうしても、アルバイト先で言われたからといって急に身に付くものではありません。これを読んでいるあなたも、例えば、医者に「酒をやめなさい」と言われて、即日止められる人ばかりではないでしょう。それと同じで、教育を受けても「バレなきゃ、なんてことはない」と思っていれば、抑止が難しいのです。

そうなると、教育効果についてはかなり割り引いて考えなければなりません。

 

待遇を改善したら防げるのか

次に、

「アルバイトに対する待遇が悪いからこんなことが起こるんだ。待遇を改善しろ。」

という意見に妥当性があるのか考えてみましょう。

 

このロジックに対するカウンターとして多くの人が指摘しているのが、

「待遇良くても炎上するよね。企業の公式アカウントもよく炎上してるし。」

というものです。

このロジックについては、バイトテロと企業の公式アカウントの炎上を一概に比較できないという問題があると考えます。というのも、社会から求められる規範のレベル感や、投稿をする際の前提となる条件が異なりすぎているからです。

 

そこで、この場合は、すき家のケースを紐解くことが非常に有効ではないかと考えています。アルバイトの待遇が短期間に劇的に改善した中で、アルバイトスタッフのネットでの言動がどうなったかを検討することができるためです。

 

すき家は、2014年に、アルバイトスタッフ含む店舗従業員の過重労働が問題視され、「ワンオペ」という言葉が社会的に認知されるきっかけを作りました。

<すき家労働問題・上>「ワンオペは大変だね」と客に同情されたーーバイトが実態告白 - 弁護士ドットコム

<すき家労働問題・下>バイトの7割「45分以上の休憩ない」データにみる過酷な実態 - 弁護士ドットコム

 

すき家は、店舗スタッフの過重労働により、店舗スタッフの離脱が相次いだり、店舗スタッフによるネットでの告発が頻発したりなどして、店舗運営自体が難しくなり、全店舗のうち約6割の店舗で営業時間を短縮するなどの対応を余儀なくされました。

これを受けて、すき家を運営するゼンショーは、現場の待遇改善(ワンオペ解消だけでなく諸々)を宣言し、実行した結果、職場環境が改善したことによりスタッフ募集に対する応募が大幅に増え、売り上げや利益も大幅に上昇し、「ホワイト化すると経営も好循環が回り出す」という好例として話題になりました。

“ワンオペ”で叩かれた「すき家」のいま (1/2) - ITmedia ビジネスオンライン

 

しかしながら、そのすき家にして、20191月末にバイトテロが発生しています。

すき家が謝罪、従業員が店内で不適切な動画を撮影 - ねとらぼ

 

このすき家のバイトテロが、2019年のバイトテロ炎上ブームの嚆矢になった観もありますので、必ずしも待遇の良し悪しで解決する問題でも無いことは明らかです。

 

ただし、ブラック企業の権化であった当時のすき家に比べれば、バイトテロの頻度や重篤度は比較にならないぐらい軽微ですので、待遇の良し悪しが全く影響しないわけではないでしょう。

もちろん、ここでいう「待遇」は、お金の問題だけに収束しません(お金の問題も大事ですが)。大切なのは、職場に対するロイヤルティをいかに高めるのか、という観点です。「こんな店、辞めてやる!」と思っている人と「ここで長く続けたい」と思っている人では、当然、ヤンチャをする可能性が自ずと異なるでしょう。

とはいえ、全ての人間がこのような合理的判断を行えるわけではありません。合理的判断を行える程度は、個人によって大きなバラつきがあります。

そのような観点からも、待遇の改善だけで問題が解消されるわけでは無いでしょう。

 

厳しい法的措置を取れば抑止できるのか

教育や待遇改善が、無意味とは言わないまでも、それ単体で決定打とならない中で、評論家の荻上チキさんはくら寿司を運営するくらコーポレーションが201928日に宣言した「刑事、民事での法的措置について、抑止効果を期待するコメントをしています。

【音声配信】ネットリテラシー研修、それも必要だけれど……▼2019年2月11日(月)放送分(TBSラジオ「荻上チキ・Session-22」)

 

荻上チキさんは、2007年にいち早くネット炎上に関する単著を出版するなど、ネット炎上に関しては造詣の深い方なので、その言には一定の説得力があります。

 

他方、このような厳しい法的措置によって負の連鎖が生まれるのではないか、という懸念の声も見受けられます。

「バイトテロ」は訴えても抑止できない、3つの理由 (1/6) - ITmedia ビジネスオンライン

 

これらの見解を踏まえつつ、私の見解を端的に述べれば

「厳しい法的措置をチラつかせただけで全てが解決するわけもないが、同時に、厳しい法的措置をチラつかせただけで負のスパイラルに陥るような職場は、そもそもどうやっても健全化などできない。」

ということに収束します。

 

まともな人材であれば、「やっちゃいけないことはやらない」のであり、「やっちゃいけないこと」が明示された上で、その内容が理不尽でなければ、「やっちゃいけないことをやったら法的措置」と言われたところで忌避感を持つわけがありません。(「やっちゃいけないこと」の中身が明示されなかったり、内容が理不尽であれば忌避感を持ちますが、そんな運用をする職場は「法的措置」云々に関係なく忌避されて当然です。)

 

単体での決定打は無い

ここまで見てきたように、どこかに特効薬が存在するわけではありません。

教育も待遇改善も法的処置もそれぞれに有効でありつつも、どれかだけで充足できるわけではなく全て必要である、というのが私の意見です。

 

とはいえ、やたらとコストかけるわけにもいかないのが企業運営であり、店舗運営でしょう。

なので、無駄を省いて運営できるように、手間を小さくできるよう設計することが大事です。

 

要点を上げれば、

 

  • 就業規則等で、バイトテロについての損害賠償請求を可能にする条項を設ける。(その方法は、以前ご紹介した書籍に詳しいのでご一読を。)
  • スタッフ採用の面接の際に必ず、バイトテロを行ったらクビにするだけでなく損害賠償もあり得る旨の説明をし、バイトテロをしないということに同意できるかを確認する。
  • 採用後の初期研修で、以下をできるだけシンプルに、明確に伝える。
    • 店舗内や就業時間中に写真や動画を撮ってネットにアップしないこと。
    • ネットにアップすれば、ネット民が見つけ出して騒ぐので、すぐにバレること。
    • その結果として炎上に至れば、高額な損害賠償請求が発生すること。
  • 働きやすい職場環境を整え、職場に対するロイヤルティを高められるようマネジメントする。そのためのマネジメント研究は各店舗任せにせず、本部がバックアップする企業体質を作ること。
  • 本部は、ブラック企業を反面教師としたマネジメント研究をすること。
  • 経営陣は、現代的労働観を学ぶこと。

というようなことに集約されます。

 

賠償請求という恐怖感だけで縛るのは限界がありますので、同時に、職場に対するロイヤルティ(=「この職場で働き続けたい」)を高める施策が欠かせません。

その職場環境改善も含め、後半の組織マネジメントについてはハードルの高さを感じる向きもあるでしょう。

しかしながら、かつてのゼンショーがそうであったように、これに着手することで経営全体が良いサイクルで回り始めるものなので、単にバイトテロ対策というミクロな話でなく、健全経営に向けての課題として取り組むのをお勧めします。