ソーシャルメディア時代のリスクマネジメント

ソーシャルメディア関連を専門とするリスクコンサルタントが、企業のリスクマネジメントについて書いています。

レピュテーションリスクには、ランクがある

本ブログは、企業にとってのソーシャルメディアにおけるリスクについて掘り下げて考察することをテーマにしています。

このため、企業のネット炎上も重要な話題の1つなのですが、ひとくちに企業のネット炎上と言っても原因はいろいろあります。

今回は、理由によっての炎上の深刻さ(重篤さ)の違いについてお話していきたいと思います。

 

ネット炎上の深刻さには、パターンによって異なる

ネット炎上の対象になることは、ほとんどの企業が恐れています。(恐れていないのは、「炎上上等」と煽っていくスタイルのごく一部の企業だけでしょう。)

ですが、闇雲にネット炎上を恐れても仕方ありません。なぜなら、ネット炎上というのは問題の原因そのものではなく、企業が抱える問題の表出の仕方の一つに過ぎないからです。つまり、企業はネット炎上そのものを恐るのではなく、ネット炎上の原因となっている、企業が抱える問題そのものの方を恐るべきですし、積極的に対処・改善すべきです。

 

その上で、正しくネット炎上を恐れるためには、その原因となっている問題の質や種類による重篤さの差を理解しなくてはなりません。

 

よくあるネット炎上のパターンをこの「重篤さ」の軽い方から挙げると、

 

ランク1:企業の商品の瑕疵

ランク2:プロモーションや公式アカウントでの表現の問題

ランク3:企業の姿勢や体質の問題

ランク4:企業の事業やビジネスモデルそのものの問題

 

と、おおざっぱに4つのランクに分けることができます。

これは、分かりやすく「ネット炎上」という観点から論じていますが、これはそのままレピュテーションリスクという言葉に置き換えても良いでしょう。

 

以下でそれぞれのパターンの概要について説明していきます。

 

 ランク1. 企業の商品の瑕疵

食品メーカーで言えば異物混入、家電メーカーで言えば不良品のようなケースを想定しています。

こういった、商品に瑕疵が発生することを良しとする企業はまず無いでしょう。

 

企業側の対応としては、瑕疵があれば、それが個別のケースであったのか、それとも生産ライン全部の問題であったのかの切り分けをおこなった上で、商品の返品交換に応じたり、自主回収やリコールを行ったりします。

その際、もし自主回収やリコールといった事態に発展したら、企業の経済的損失は莫大なものになります。

ですが、商品の瑕疵だけを原因とするネット炎上というのは、ほぼ発生しません。もちろん、瑕疵があった旨の情報は拡散するかもしれませんし、中には面白がって揶揄するようなことをネットに書き込む人もいるでしょうけれど、商品の瑕疵に目くじらを立てるのはその商品を購入した人だけです。このため、レピュテーションという観点から言えば、禍根を残すことは比較的軽度です。

むしろ、企業が誠意ある対応を行えば、逆に信頼感が上がるので、レピュテーションの向上に寄与する場合すらあります。

 

しかしながら、商品の瑕疵に対する企業の対応に無礼や欺瞞があれば、問題は「商品の瑕疵」に止まらず、一気にランク3の「企業の姿勢や体質の問題」に重篤さが跳ね上がります。

 

たとえば、リコールなどは、瑕疵発覚後迅速に対応すれば炎上することはありませんが、リコール隠しなどをおこなって2年後に発覚などすれば、完全に「会社の姿勢や体質の問題」を原因として炎上し、そのブランドイメージに対するダメージは長らく尾を引きます。

 

ランク2.プロモーションや公式アカウントでの表現の問題

企業のプロモーションが炎上するパターンとして、炎上マーケティング狙いでもなく、誰かを揶揄する意図もなく、単に面白いプロモーションや、顧客の痛みに寄り添うようなメッセージを志して裏目に出るというパターンが度々あります。(本ブログでも度々取り上げています。)

このようなケースはあくまで表現の問題ですので、表現が至らなかったことを反省し謝罪すれば、問題が大きくなることはありません。

もちろん、プロモーション自体を取りやめるなどした場合、せっかく投下した費用が無駄になるので、企業にとっても無痛ということではないと思います。が、謝罪後もダメージを引きずる、ということを過剰に恐れる必要はありません。

 

ただし、「謝ればいいんでしょ?」というような開き直りや、そもそも炎上マーケティング狙いであることが透けて見えるような企画の場合、「表現」の問題ではなくなってしまい、レピュテーションリスクはランク3の「企業の姿勢や体質の問題」にランクアップすることになります。

 

ランク3.企業の姿勢や体質の問題

人間に例えると、仕事などでミスをしてしまった場合に、個別のミスについて怒られたり叱られたりしている段階が、前述したランク1とランク2です。これに対して、全人格的に「おかしいんじゃないか」と言われてしまう段階がランク3です。

 

個別のミスの話に止まっているうちは、「次から注意しろ」で終わるのですが、そもそも人格的に「次も同じことをするだろう」とみなされると、根本的な信頼を失ってしまいます。

レピュテーションにおいて、「次は同じ失敗をしないだろう」と思ってもらえるのと、「どうせ次も同じ失敗するんだろ?」と思われてしまうのとでは、大きな隔たりがあります。

この「人格」に当たる部分が、企業でいえば会社組織としての「姿勢」や「体質」ということになります。

 

「結局こういう会社だから、信頼できないよね」というレピュテーションは、企業が商売を続けていく上で最も避けなくてはならないものですが、そのような負のレピュテーションを生んでしまった原因が、何か事が起こった際の企業としての対応の不誠実さであったり、隠蔽や欺瞞などであったりした場合、それを挽回するような画期的な何かが起こらない限りは、その不信感が続きます。場合によっては不買運動にまで発展するケースが発生するのも、この「ランク3」からです。

 

なお、これは、ソーシャルメディア時代特有のことではなく、20世紀から同様の構造は存在しました。たとえば、かつての雪印乳業製品による集団食中毒事件などはその典型でしょう。

当時と現在で異なるのは、そのレピュテーションを広める担い手が、20世紀にはマスコミだけだったのが、今はソーシャルメディアも大きく寄与するようになった、という点だけです。

 

ランク4.企業の事業やビジネスモデルそのものの問題

ランク4の「企業や事業のビジネスモデルそのものの問題」は、ランク3の「企業の姿勢や体質の問題」に包含されると考えることもできます。それをわざわざ「ランク4」と一段高い扱いにしたのには理由があります。

「姿勢」や「体質」といった場合、漠然としているケースもあるため、非難する側の矛先も鈍るケースがあります。

しかしながら、それが、特定の事業やビジネスモデルといった具体性を帯びた場合、非難の内容もまた具体性を帯び、力を持つことになります。しかも、その事業やビジネスモデルがそのまま続けられる限り、非難が止むことはありません。つまり、事業やビジネスモデルの修正や転換が強く求められる事態となります。これが、ランク3とランク4の大きく異なるところです。

 

ランク4の典型として、PCデポのケースが挙げられるでしょう。

 

2016年に、PCデポ店頭での顧客との契約の仕方を問題視する告発がTwitterに投稿され、それを人気ライターが拡散することで広く知られるところとなりました。

PCデポ 高額解除料問題 大炎上の経緯とその背景(ヨッピー) - 個人 - Yahoo!ニュース

 

この後も同様の告発投稿がソーシャルメディア上に多数アップされ、既存顧客の解約が増加するなどの直接的な影響が出ました。

PCデポ、4日遅れで決算発表 解約問題尾を引く :日本経済新聞

 

この影響で、販売促進活動の自粛や店舗の新規出店や改装の延期などが発生し、20173月期、20183月期と2期続けての経営不振が続くなど、経営に大きな影を落としました。

2018年3月期 決算説明 株式会社ピーシーデポコーポレーション

20193月期は、第三四半期までの決算を見る限り、ゆるやかな回復傾向にあるようです。)

 

このように、事業やビジネスモデルそのものが問題視されると、その事業やビジネスモデルそのものを修正・転換しない限り謝罪に説得力も生じないため、立ち直りに時間がかかってしまいます。また、修正・転換をしてもそれがビジネスとして上手くいく保証もありません。

こうなると、非常に苦しい経営環境の中で戦わなければならなくなりますし、企業の体力が無ければ倒産や廃業といった可能性も無視できません。

 

謝罪から納得感までのリードタイムの問題として

ここまで、レピュテーションに関するリスクの重篤さを4つのランクに分けて説明してきましたが、この「重篤さ」とは、結局、謝罪をしてから世間が納得するまでのリードタイムの問題であるとも言えます。

 

ランク1と2については、「次から気をつけます」と企業が迅速に対応すれば、受け手も「それなら次から気をつけてね」で終わる話です。

ランク3は、「次から気をつけます」と発表しても、「前にも同じことやってたじゃん」とか、「そんな態度で本当に改善できるの?」などといった疑いの眼差しを向けられるわけですから、納得感を得られるまで時間がかかる可能性が生じます。

ランク4に至っては、「次から気をつけます」と発表したところで、問題になった事業をそのまま続けている限り「全然反省してないじゃん!」という総ツッコミを受けることになりますので、いったん事業を止めなければならず、経営は相当苦しいことになります。

 

私の個人的な思いとしては、明るみに出た時に消費者からの納得感が得られないようなことは慎むべきだと考えています。

それは、正義や倫理の問題でもありますが、それ以上にソーシャルメディア時代においては、企業があまり明るみに出して欲しくないことでも(むしろ、出して欲しくないことだからこそ)、隠し続けることは不可能だからです。

ソーシャルメディアでは、不正や欺瞞に対しては必ず誰かが声を上げます。企業は、声を上げられて困るようなことをするべきではないというのが、経済合理性の観点からも妥当する時代になったと考えるべきでしょう。