ソーシャルメディア時代のリスクマネジメント

ソーシャルメディア関連を専門とするリスクコンサルタントが、企業のリスクマネジメントについて書いています。

ネット炎上における拡散の仕組み① 「拡散」はネットユーザーのリアクションの積み重ねである

「ネット炎上」とは、「多くの人」がソーシャルメディアにおいて、特定の人や企業・団体の言動に対して批判・非難の声を上げている状態のことを指します。10人や100人といった程度のネットユーザーが話題にしたからといって、それは「ネット炎上」とは呼びません。

 

また、ネット炎上には「拡散」という現象が伴います。

これは、ネット炎上の元となっている人や企業・団体の言動を見て「けしからん!」と声を上げた人のソーシャルメディアでの投稿を見た人が、「確かにけしからん!」と同調し、さらにその批判の輪を広めていく現象のことを指します。(ここでいう「拡散」はネット炎上での話に限定していますので、他のシーンでの「拡散」については考慮に入れていません。)

先に述べたように、10人や100人が批判・非難しても「炎上」と呼ばないのは、この「拡散」が伴わないからです。

 

つまり、ネット炎上という現象は、「けしからん!」という投稿をソーシャルメディア上で見た人が、「確かにけしからん!」と拡散させることによって大きくなる、という側面を持っています。

 

本稿では、この「拡散」に着目し、人が「拡散」をさせる動機について考察をしていきたいと思います。

 

「けしからん!」という声に、人はどう反応するのか

まず前提として理解しておきたいのが、炎上の規模が大きければ大きいほど、人がその炎上の元となっている事物を知るきっかけは、誰かが投稿した「けしからん」という批判であることが多くなる、ということです。

(炎上の規模が大きくなって各種メディアで取り上げられるようになると、他者の投稿よりも、ニュース記事やワイドショーなどが知るきっかけとなったりもします。)

 

たとえば、企業が新商品のCMをテレビで放映したとします。どれぐらい露出するかにもよりますが、基本的にそのCMはごく一部の人にリーチするだけです。(通常、当該商品のターゲット層に合わせた時間帯や番組を中心に放映枠を絞り込むので、全方位的なリーチにならないのは当然です。)

なので、当該CMに何らかの批判されるべき問題があった場合、そのCMを視聴した一部の人が「けしからん」と声を上げるわけで、その時点ではほとんどの人がそのCMの存在自体を知らないという状態です。

そのような状況下で、その「けしからん」という投稿を目にした人がどのような反応をするは、以下の3種類に分けられるでしょう。

 

  • 「確かにけしからん!」と同調する。
  • 「けしからんとは思わない」「むしろ自分はアリだと思う」と、元ネタであるCMを擁護する。
  • リアクションしない。

これらの反応の中で、1つめの「確かにけしからん」という反応がネット上で優勢かつ多数となれば「炎上」(flaming)ですし、「確かにけしからん」と「けしからんとは思わない」が拮抗した場合には「論議」(controversy)と呼ぶべきでしょう。(「flaming」と「controversy」については、こちらの記事をご参照ください。)

 

こうしたリアクションが更なるリアクションを呼び、「拡散」が発生します。もちろん、ネットの投稿だけが拡散を呼ぶのではなく、ネットメディアの記事やワイドショーなどで認知が広がることで、更なる大きな拡散を招きます。が、ネットメディアやワイドショーはある程度拡散が発生してからでないと取り上げませんので、初期の拡散は上記のような「確かにけしからん」「けしからんとは思わない」というようなリアクションから始まると考えるのが妥当です。

 

なお、数の上では、3つめの「リアクションしない」が最も多いのではないかと推測できますが、その人々が全く関心が無いのか、それとも内心は「確かにけしからん」「けしからんとは思わない」のどちらかの感想を抱いているのか、どちらであるかは分かりません。また、可視化されていない反応については「ネット炎上」という現象そのものとは直接関係が発生しないため、ここでは「確かにけしからん」「けしからんとは思わない」のリアクションに関して論じていきます。

 

なぜソーシャルメディアでリアクションするのか

では、なぜ人は、「けしからん」という投稿を見かけた時に、上記3パターンの反応に分かれるのでしょうか。

 

この問いは、「人によって異なる」という人間性の観点と、「目にした投稿によって異なる」という投稿内容の観点があります。

ここでは、前者の観点は企業の炎上対策としてはあまり意味が無いと考えますので、後者に議論を絞ります。(クレーマーみたいに、何にでも「けしからん!」と言う人のことを考えていても、炎上対策としては有効ではないので。)

 

みなさんも、ネットの投稿に限らず、新聞でもテレビでも、思わず「確かにそうだ」と同調したくなるような記事やコメントに接することがあるでしょう。

その逆に、「それはおかしいんじゃないか?」とツッコミを入れたくなるようなこともあると思います。

そして、大方の情報については、わざわざリアクションをするほどの関心も抱かずに、10秒後には念頭から消しているでしょう。

 

ネットの投稿にリアクションする人たちの思考もそれと同じです。

なんでもかんでもリアクションするということではなく、思わず同調したくなるような投稿や、思わずツッコミを入れたくなるような、直感に強く訴えてくる投稿に接した時に、リアクションする動機が生まれます。

しかしながら、自宅でテレビを見ながら独り言を言うのと、ソーシャルメディア上で発信することとの間には、ちょっとした違いがあります。それは、完全にプライベート空間のことで完結するのか、それとも、多少なりとも他人の目に触れるのか、という違いです。

 

自宅のテレビに向かって独り言を言うのは、せいぜい家族にしか聞かれません。しかしながら、ソーシャルメディアでの発信は、基本的には第三者の目に触れることを理解して発信している人がほとんどです(たまにその認識の薄い人もいますが)。

つまり、思わず直感的に発信したくなることを、発信せずに終わらせる阻害要因としての「他人の目」があります。

多くの人は、自宅のテレビに向かって独り言を言うのはあまり躊躇わなくても、街頭のテレビに向かって独り言を言うのは躊躇うでしょう。それと同じです。

 

これをまとめると、以下のようになります。

 

リアクションする動機やトリガー:直感に訴えかけてくる内容

リアクションを阻害する要因:他人の目

 

ここで、

「炎上に参加するようなネットユーザーは、他人の目なんか気にしないんじゃないか」

という疑問を持たれる方もいらっしゃるかもしれません。

それはおそらく、炎上に参加する人について「ネットばかりやっている引きこもりの社会不適合者」というイメージを持っているためでしょう。実際、NHKのドラマ『炎上弁護士』や日本テレビのドラマ『3A組』などでは、そのようなステレオタイプで描かれていましたので、そう考える方がいても無理はありません。

ですが、実態としては、ネット炎上参加者はそういった特殊な一部の属性に限っているわけではないことが、調査によって明らかになっています。

ネット炎上の研究 「炎上の分類・事例と炎上参加者属性」

 

本資料によると、炎上参加者の属性については、

  • 年収が多い、子持ちである、ラジオ利用時間が長い等の属性。
  • 学歴・結婚の有無・インターネット利用時間等は有意にならず。
  • 炎上に参加しているのは低所得・低学歴・インターネットヘビーユ ーザの人というイメージは支持されなかった。

とされています。(スライド38枚目)

 

つまり、目にしたものに直情的にリアクションするばかりでなく、リアクションをするにあたって他人の目も気にするということは念頭におくべきでしょう。

 

では、他人の目を気にした時、人はどういった投稿を止め、どういった投稿をするのでしょうか。

端的に言えば、その投稿を見た人からプラスの評価を得られると思う投稿をする、ということです。

 

ここでまた、疑問を持つ方がいらっしゃるでしょう。

「プラスに評価されることだけを投稿するのであれば、なぜバイトテロなんか起こるんだ?」

と。

それに対する答えば簡単で、投稿した本人はあれがプラスに評価されると思ったから投稿しているわけです。

というのも、自分の投稿を見ている「他人」は、その投稿を面白がってくれると彼らは思っていおり、職場の店長の目を想定していないからです。

つまり、投稿する人がどのような「他人」を想定しているかによって、想定する「プラスの評価」の種類も異なります。が、少なくとも、投稿においては、それぞれの知能と能力の範囲で読み手を意識している、ということは言えます。

つまり、「バカだけどおもしろい」と思われたい人は自分が思う「バカだけどおもしろい」ことを投稿しますし、「バカだと思われたく無い」と考える人は、バカだと思われないような内容で投稿を心がけます。

 

ここで、併せて考えたいのは、企業の炎上においては、企業の責任や倫理を問うものがほとんどである、ということです。

このような話題の時に「バカだけどおもしろい」投稿は、何の説得性も持ち得ません。これに対して、「一理ある」と思わせる頭の良さげな投稿が説得性を持ちますし、このような話題に際しては説得性こそが「プラスの評価」につながりやすいので、同調しやすいという面があります。

つまり、企業の炎上案件においては、「一理ある」と思わせるような頭の良さげな投稿こそ、リアクションにおける阻害要因を排除する(=リアクションをしやすくする)わけです。

 

上記のストーリーを「けしからん」という投稿と「確かにけしからん」というリアクションに当てはめれば、「けしからん」という投稿の内容が直感に訴えかけてくるようなものであり、同時に、「一理ある」というような頭の良さげな内容であれば、「確かにけしからん」というリアクションがしやすくなり、多くの人がリアクションした結果として「拡散」という現象が発生する、ということです。

 

以上が、ざっくりした「拡散」の仕組みでした。

 

 

次回は、直感に訴えかけてくるものとは何なのかについて掘り下げていきたいと思います。