ソーシャルメディア時代のリスクマネジメント

ソーシャルメディア関連を専門とするリスクコンサルタントが、企業のリスクマネジメントについて書いています。

ネット炎上における拡散の仕組み③ 「直感」と「ロジック」の具体例

前回は、なぜネット炎上において、人はわざわざ「拡散」をするのか、ということについてお話ししました。ただ、前回は抽象的な話が中心でしたので、実際にどういう状況なのかをイメージしにくかった方もいらっしゃるかもしれません。

 

そこで今回は、具体的な事例を挙げながら、「直感」と「ロジック」がそれぞれどのように「拡散」に寄与するのかを見ていきたいと思います。

 

具体例① 三ツ矢サイダーのCM

1つめの事例は、2017年に放送されていた三ツ矢サイダーのCMです。

 

当該CMの詳細については、下記の記事をご覧ください。

三ツ矢サイダーのCMが炎上 トランペット演奏中の人へ背後からぶつかるシーンに楽器経験者から批判続出 - ねとらぼ

 

リンク先の記事にもあるとおり、金管楽器演奏経験者を中心に「唇が切れる」「歯が折れる」などの声がソーシャルメディアで広がり、その声を受けて広告主がCMを差し止めた、というのが経緯です。

 

おそらく、「唇が切れる」「歯が折れる」といった視点は、金管楽器演奏経験者でなければ思い至らない盲点だと思います。(実際私も、Twitter上でこの指摘を目にするまで、全く想像が及びませんでした。)

つまり、大多数の未経験者からすれば、このCMにそのような問題が含まれていることなど気付きもしない可能性が高いわけです。しかしながら、経験者による「危険である」という指摘を目にし、「確かにその通りだ」と考えるに至って拡散をしたという構図があろうかと思います。

指摘を目にするまでは想像もしなかったであろう危険について、指摘を目にすることで、トランペットのマウスピースが自分の唇や歯に当たる感覚を想像するに至って「痛そう」という感覚を伴った直感が働いたのでしょう。また、同時に、その痛覚というのは、それを誘発することが社会悪であるという「ロジック」に裏付けられ、拡散させることにためらいを感じさせなかった、ということではなかろうかと思います。

 

具体例② パーフェクトワンのCM

2つ目の事例は、2018年に放映されたパーフェクトワン薬用ホワイトニングジェルのCMです。

新ブランドCM放映開始「パーフェクトワン 薬用ホワイトニングジェル 星座篇」 | 新日本製薬 株式会社

 

このCMの映像で使われている天体観測装置のうち、赤道儀という装置の設置の仕方が間違っているようで、放映当時、一部の天文ファンにより「恥ずかしい間違いだ」という主旨の指摘がなされました。

あいにく私は天体観測装置に関する知識を全く持っていないので、この指摘の妥当性を判断することができませんが、おそらくは天文ファンの方々の指摘は正しいのではないかと推察します。

ただ、この演出上の誤謬は、少なくとも第三者を傷つけたり、不当に貶めたり、ということには繋がらなさそうです。おそらく、指摘を目にした多くの人が受けた印象もそうだったのではないかと想像します。

つまり、本CMの誤謬に対する指摘の「ロジック」が一片の曇りもなく正しいのだったとしても、多くの人にとってピンと来ないものであり、「直感」に訴えかけるところが小さかったのだと思います。

 

結果、このCMに関する誤謬の指摘はほぼ拡散することなく、広告主側でも特段のアクションをおこなった様子は見受けられません。

 

「直感」と「ロジック」の両方が無いと、批判は「拡散」しない

三ツ矢サイダーの件から分かることは、「直感」は、そのCMを見たときに湧かなくても、誰かの指摘を見たタイミングで湧く場合がある、ということです。

 

他方、パーフェクトワンの件から分かることは、どんなに「ロジック」が正しくても、「直感」が伴わなければ「拡散」しないということです。

 

また、ここでは個別の事例を挙げることは控えますが、極右的ヘイトを煽る一部の言説が日本で広まらないのは、「ロジック」に欠陥があるためであることは明白です。(欧州などで極右政党の台頭が激しいのは、移民問題に関する背景が日本とは大きく異なっているため、その「ロジック」を正しいと思う人がそれだけ多いということなのでしょう。)

 

これらを総合して考えると、やはり「直感」と「ロジック」の両方がそろって初めて、批判は「拡散」します。

 

 

なお、本ブログのテーマから逸れるので詳しくは述べませんが、批判ではなく、ポジティブな話題の「拡散」については、必ずしも「ロジック」は必要ありません。

例えば、若手お笑い芸人がYoutubeでブレイクする場合には、そのネタがいかに正しいものであるかというような「ロジック」は関係なく、「おもしろい」という要素があればいいわけです。

(もちろん、面白ければOK、というだけのスタンスでは、宮城県や鹿児島県志布志市のPRのような結果を招くので注意が必要です。)

 

 

以上、3回にわたって、ネット炎上における「拡散」の仕組みについてお話ししてきました。

この話題については、これにて完結とさせていただきます。