ソーシャルメディア時代のリスクマネジメント

ソーシャルメディア関連を専門とするリスクコンサルタントが、企業のリスクマネジメントについて書いています。

「不特定多数を想定したコミュニケーションのスキルが不足している」ということ

前回は、企業がネット炎上する場合の、企業側に起因する真の原因として以下の3パターンのうちの2つ目についてお話ししました。

 

  1. 都合の悪いことを誤魔化したり隠蔽できると思っている。
  2. 昭和的道徳観からアップデートできていない。
  3. 不特定多数を想定したコミュニケーションのスキルが不足している。

 

今回は、3つ目「不特定多数を想定したコミュニケーションのスキルが不足している」についてお話をしたいと思います。

 

ソーシャルメディアを前提としたコミュニケーションの特異性

現在、ある程度以上の規模の企業であればかなり多くの割合で、ソーシャルメディアの公式アカウントを運用されているのではないでしょうか。

Facebookページ、TwitterInstagramLINEYoutubeチャンネル、などなど。最近では、TikTokに興味を持たれている企業もチラホラいらっしゃることでしょう。

 

このような公式アカウント以外にも、ソーシャルメディアにおいてインターネット広告を配信したり、いわゆるインフルエンサーを起用した宣伝活動(インフルエンサーマーケティング:参照)などをおこなうケースもあるでしょう。

 

このような、公式アカウントやプロモーションでの発信には、テレビや紙媒体での広告とは明確に異なる特性があります。その1点目は、情報の受け手であるソーシャルメディアユーザーにとってリアクションが容易であることです。

 

例えば、紙媒体やテレビで見たものをソーシャルメディア上で共有しようとすると、わざわざそのコンテンツを写真に撮ったり、説明をしたりなどの手間が発生します。他方、すでにソーシャルメディアに上がっているものであれば、それをそのまま「シェア」や「リツイート」をすればいいだけなので、共有するためのハードルが非常に低いわけです。

 

また、2点目として、このようなソーシャルメディアユーザーの反応に対して、企業側がさらに何らかのリアクションをするかどうかを、企業側が主体的に選択しなければならない、というのもソーシャルメディア時代ならではです。

 

テレビや紙媒体で見た内容について、消費者が電話やメールで企業に問い合わせた場合、企業側としてはその問い合わせに対応しないという選択は取り得ないわけですが、ソーシャルメディア上では、ソーシャルメディアユーザーからのリツイートやコメントやメンションに対して、企業側から何らかのリアクションをすべきなのか、すべきでないのか、というところから考えなければなりません。

このようなコミュニケーション設計の違いも、ソーシャルメディアとそれ以外との異なる点です。

 

3点目として挙げられるのは、コミュニケーションが1対1でも、1対多でもない、ということです。

企業が単にソーシャルメディア上で一方的に情報を発信するだけであれば、企業と消費者の関係は1対多です。また、消費者が企業に電話やメールで個別に問い合わせをした場合には、基本的には1対1のコミュニケーションとなります。

これが、先に述べたようなリツイート、コメント、メンションといった状況に対して、企業がソーシャルメディア上でリアクションするとすれば、当該ユーザーと企業とのコミュニケーションは1対1でも、1対多でもなく、衆人環視の中で行われる劇場型とならざるを得ません。(なお、電話やメールでの個別の問い合わせ対応だったとしても、そのやりとりがネット上に晒されれば、それは途端に劇場型となります。)

 

さらには、企業としての公式ではなく、従業員や経営陣による私的な発信が企業に及ぼす影響についても考慮に入れなければなりません。(私的な発信といえど、企業として無関係でいられるわけではありません。)

これは、バイトテロだけでなく、経営者個人のアカウントでの発言(ZOZOの前澤社長のTwitterでの発言が話題になったことは記憶に新しいでしょう)、公式アカウントによる不規則発言なども範疇に入ります。

 

このように、企業としてソーシャルメディア上でのコミュニケーションを考える場合、ソーシャルメディア以前のような単純な関係性として設計することは不可能で、不特定の様々なプレイヤーが多数入り乱れるように関与することを前提にしつつ設計しなければなりません。

このような状況をここでは「不特定多数を想定したコミュニケーション」と呼びます。

 

「不特定多数を想定したコミュニケーション」をするために必要な認識と設計

一般に、企業は「不特定多数を想定したコミュニケーション」に対して苦手意識があります。その苦手意識は何に起因するのかというと、どこからどのような反応があるか分からないし、もし想定していない反応があった場合にどうしたらいいのか分からないという不安によります。

そのような不安に陥るのは、ソーシャルメディア時代以前には経験してこなかった「劇場型」のコミュニケーションに不慣れだからでしょう。

 

おそらく多くの企業は、悪質な言いがかりや詐欺まがいのクレーマーの対応に頭を悩ませてきたことと思います。

クレームの多くは真っ当なものでしょう。しかしながら、ごく一部の理不尽なクレーマーに如何に対処すべきか、お客様センターをはじめ、企業の各部門は頭を悩ませることが度々あるはずです。

理不尽なクレーマーの理不尽な要求を飲んでしまえばそれ自体がリスクとなりますし、かといって、下手な対応をしてしまえば「対応が傲慢だ」という評判を撒き散らされるかもしれないと思うと、安易に突っぱねるわけにもいきません。(そういったクレーム対応の難しさは、20世紀末に発生した東芝クレーマー事件が嚆矢と言って良いでしょう。)

このような理不尽なクレームは電話でじっくり会話をしても解決が難しいのに、ソーシャルメディア上でそのような理不尽なクレームに遭遇した場合に、相手の納得感を引き出すのは難しいのではないかと、企業側が不安に思うのも無理はありません。

 

結論から言えば、このような不安は、基本的に必要ありません。

というのも、理不尽ではないクレームに対しては、お客様センターへ誘導するなどして、個別に誠意を以って対処すれば良く、それに応じない、もしくは、お客様センターでのやり取りをソーシャルメディア上に持ち出すようなクレーマーについては、前述の「劇場型」を念頭に置いて対応すれば良いわけです。

 

劇場型においては、クレーマー自身を納得させることは最優先事項ではありません。

むしろ、企業側が筋を通し、誠意を以って対処することで、それを第三者的に見ている多くのネットユーザーたちの納得感を引き出すことが重要です。

 

このようなことを言うと、ソーシャルメディアに親和性の低い方は「ネットユーザーは企業よりも消費者の肩を持つんじゃないのか」と思われるようです。しかし、そのような単純な構図で思考している限り、ソーシャルメディアでのコミュニケーションに対する苦手意識からは決して抜け出すことはできません。

まず、消費者が企業に対してクレームを申し立てた場合、第三者的に見ているネットユーザーは、意外に公平な見方をしているものだということを理解する必要があります。

理不尽なクレーマーがソーシャルメディア上に戦いを持ち込んだ場合、ネットユーザーは企業に対してではなく、そのクレーマーに対して容赦をしないという事例には事欠きません。

例えば、少々極端な事例ではありますが、些細なことで店員に土下座を要求するクレーマーに対して、ネットユーザーがどのような対応をしたのかについて見てみましょう。

『しまむら』店員を土下座させて逮捕 クレーマー主婦をブタ箱に入れた「強要罪」はこんなに怖い(週刊現代) | 現代ビジネス | 講談社(1/3)

主婦が「土下座写真」をインターネット上で公開した直後、匿名掲示板では「店員を土下座させたクレーマーがいる」という噂が広がった。「炎上」の格好の標的となった彼女は、瞬く間に氏名や住所を暴かれ、自宅近くで娘と一緒の写真まで撮られてしまう。

 

果たして、クレーマーだからと言ってここまで叩いて良いのかといった問題はありますが、とはいえ、理不尽なクレーマーに対する多くのネットユーザーの心情はこれに代表されるように思います。

このようなことから、企業側は特殊なクレーマーそのものに心を砕くよりも、そのやりとりを見ている多くの人々が納得できるような、筋を通した誠意ある対応をすることが必要です。

 

ただし、この「筋を通した誠意ある対応」というのが、企業内の論理がそのまま通じるということではないので、場合によってはコミュニケーションのプロトコルを見直す必要があるかもしれません。

 

2014年の事例になりますが、カップ焼きそばに異物が混入していたことをきっかけとして大炎上に発展したケースでは、異物混入の告発だけで大炎上に発展したのではなく、メーカー側の対応において「筋を通した誠意ある対応」と見なされない言動があったために大炎上に至ったという経緯があります。

ペヤングゴキブリ混入事件とその後まとめ!大学生のツイッターで発覚

お互いのためが云々いって圧力かけてくるあたりカチンときた。

 

メーカー側としては、いきなり異物混入画像をTwitterにアップされた怒りがあったのかもしれません。また、食品メーカーに寄せられる異物混入関連クレームの多くはメーカー側にとって無謬のものであるため、虚偽の申し立てを疑っていたのかもしれません。

ですが、ソーシャルメディア時代以前であればこのような対応で騒ぎが大きくなることはなかったかもしれませんが、ソーシャルメディア時代においては「企業が無謬の消費者に圧力をかける」という構図は絶対に避けなければなりません。

 

まず、「いきなり異物混入画像をTwitterにアップされた」ことは、その記載内容が真実である限り、ソーシャルメディア時代においては不当なことではないという理解に立つことが重要です。(細かく言えば、名誉毀損罪の違法性阻却事由などの問題になるのですが、ここでは司法の話ではなく、ネット上での心象の問題として話をしています。)

その上で、その真実性に関して慎重に調査を進める必要があります。このタイミングで、場合によっては企業としての公式のステートメントを発表するなど対処も必要になるかもしれません。いずれにせよ、事が判然としないうちに、自社にとって目障りな情報を見えないようにしようという方向に意識を向けてしまうと、非常に高い確率で反発を招きます。(その最たるケースはDMCAの濫用のケースでしょう。参照:

ネット炎上には、削除依頼ではなくアカウンタビリティ(説明責任)で - ソーシャルメディア時代のリスクマネジメント

 

このような、ソーシャルメディアを念頭においたコミュニケーションプロトコルが自社内できちんと共有されているか、そして実行されているか、どの企業においても改めて精査する必要があるのではないでしょうか。

 

 

以上、ここまで複数回にわたって、企業の体質に起因するネット炎上の真の原因についてお話ししてきました。

リスク管理体制の構築やアップデートを行う際に、ぜひこのような視点を盛り込んでみてください。