ソーシャルメディア時代のリスクマネジメント

ソーシャルメディア関連を専門とするリスクコンサルタントが、企業のリスクマネジメントについて書いています。

現象としての「拡散」

以前の記事で、人はなぜ「拡散」をさせるのかについて、心理的動機の面から掘り下げるお話をしました。

ただ、その記事においては、「なぜ」については掘り下げましたが、「どのように」についてはほとんど触れていません。

今回は、その「どのように」について掘り下げることで、現象としてのネット炎上についてお話ししていきたいと思います。

 

「拡散」はTwitterで起こる

「拡散」という言葉がどのような現象を指すのか。

簡単に言ってしまえば、物事がネット上で多くの人の口づてに伝播することを指します。

「口づて」と言っても、ネット上での出来事ですので、実際に口頭で発した言葉を伝言ゲームのように伝えていくわけではありません。「投稿」「記事」といった形で文章や画像や映像として表現されたものが、シェアやリツイートといった機能を使って不特定多数に対して転送されていく、というのがネット上で言うところの「拡散」です。

 

もちろん、シェアやリツイートといった機能を使用しなくても「伝播」という現象は成り立ちます。

たとえば、誰かが書いたブログを見て、そのブログを見た人がそれを引用しつつ自分でもブログに記事を書く、というのも、立派な「伝播」です。(今となっては懐かしい、ブログのトラックバックという機能は、元々はこのような「伝播」の連鎖を可視化するための機能でした。)

ただ、シェアやリツイートといった機能を使うことで、「伝播」のハードルが非常に低くなるのは間違いありません。

 

ただし、このような「伝播」が「拡散」に至るには、もう1つハードルがあります。

それは、多くの人がその「シェア」「リツイート」された記事や投稿にアクセスできる必要があるということです。

これには少し解説が必要かもしれません。

 

例えば、Facebookで何らかの記事をシェアした場合、その記事を目にする人は基本的に、記事をシェアした人と「友達」として繋がっている人だけです。それも、確実に「友達」のタイムラインに表示されるわけではなく、Facebook独自のアルゴリズムによって、表示されない可能性も高いです。また、他者が当該投稿にアクセスする動線は、基本的にタイムラインのみなので、タイムラインに表示されなければ、記事自体存在しないのと同然で、シェア以前の問題です。

しかも、「友達」がさらにその記事をシェアしようとしても、記事の公開範囲が「友達」までに設定されていた場合、シェアできません。

このように、Facebookの仕様は非常に「伝播」しにくいものになっています。

 

Instagramの場合は、サードパーティのアプリを使用しない限り、Instagram上で見かけた投稿を自身のタイムライン上で「シェア」することはできません。(正確には、ストーリーズにはシェアすることが可能ですが。)

このため、Instagramも「伝播」しにくい仕様になっています。

 

これに対して、Twitterは、リツイートという機能が用意されており、1クリック(もしくは、1タップ)でタイムラインに表示させることができます。リツイートした投稿がフォロワーのタイムラインに表示される可能性はFacebookに比べ極めて高く、「伝播」のハードルが非常に低くなっています。

現在のところ、ユーザー数の大きなwebサービスやアプリの中で、「伝播」しやすい構造を実現しているのはTwitterだけだと言って良いでしょう。

実際、Twitterが現在のように日本のネットユーザーのスタンダードになる前は、ネット上での「拡散」という概念自体が希薄でした。

 

Twitter以前と以後

それでは、Twitterが一般化する以前の「ネット炎上」はどのような形だったのでしょうか。

 

Twitterの「一般化」の目処として、20113月の東日本大震災が挙げられることが多いのですが、実際、Twitterを舞台としたネット炎上は2011年に爆発的に増え、ネット炎上の規模も非常に大きくなります。

 

それ以前(2010年まで)のネット炎上の構図は、ほとんどの場合、以下の2パターンに集約されます。

 

  • 攻撃対象となる人が開設しているブログのコメント欄に大量の非難・批判が寄せられる。
  • 2ちゃんねるにスレッドが立ち、叩かれる。

 

このようなネット炎上の仕方では、いわゆる「拡散」の程度は大きくないため、騒ぎはタコツボ化しやすかったわけです。(2ちゃんねるの最盛期でも利用者数は1000万人そこそこであり、しかも板ごとに住人が分断されているため、広く一般に知れ渡る、という状態にはなりにくかったわけです。)

これが、2011年を境に、Twitterでの「拡散」という現象が発生します。

ここでは個別具体的な炎上事例を挙げませんが、2011年は現代型のネット炎上元年と言っても過言でない年となります。

(ちなみに、Twitterの日本でのアクティブユーザー数は、2011年で2000万人弱、2017年には4500万人強と言われています。)

 

Twitterの一般化によって生じた「拡散」という新たなパターンは、それまでのネット炎上とは比較にならないほど多くの人の目に触れるようになり、騒ぎも大きくなります。

 

その構図を図式化したものが、以下の図です。

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炎上のきっかけとなる言動は、必ずしもTwitter内で発生するわけではありません。それは、テレビCMかもしれませんし、新聞記事かもしれません。そのようなきっかけとなる事案について、誰か(1人ではなく、複数人による同時多発的な場合もあります)によって「けしからん!」と話題に上げられます。これが「出火」フェーズです。

ちなみに、今年の1月末から2月にかけて発生した一連のバイトテロ炎上は、TikTokInstagramに投稿されていたものを、わざわざ告発者がTwitter上に持ち込んで「けしからん!」と投稿したのが始まりでした。

 

この投稿が多くの人の琴線に触れれば、「たしかにけしからん!」という「拡散」を促します。

この「たしかにけしからん!」という「拡散」が一定水準を超えると、Togetterにまとめられたり、webメディアに取り上げられたりなどして、さらなる「拡散」を呼びます。

これが「拡散」フェーズです。

 

この「拡散」フェーズにある話題に対しては、ネットメディアだけでなく、新聞やワイドショーなどのスタッフが常にウォッチをしています。新聞やワイドショーで取り上げることができそうな話題についてピックアップするためです。

こうして新聞やワイドショーで取り上げられると、それを見た人がその新聞記事や番組の情報(キャプチャなど)をTwitterにアップします。新聞記事や番組そのものがシェアされるだけでなく、新聞記事や番組で取り上げられたことについてウェブメディアが記事化し、それがシェアされるということもあります。

ここまで来ると完全に「炎上」と呼ぶべきフェーズとなります。(「拡散」フェーズですでに「炎上」と表現するような場合もありますが。)

 

「炎上」フェーズに至ると、同時多発的にいろいろなところで話題になるため、話題がどんどん飛び火します。このため、「拡散」が再生産され続け、そのたびに「炎上」の規模が大きくなっていくわけです。

 

「拡散」の再生産が最も恐ろしい

企業のネット炎上対策において、実際に炎上へと至る「拡散」のフェーズに自社が巻き込まれた場合、何を優先してクライシスマネジメントをするべきなのか。

それは、「拡散」の再生産を止める、ということです。

 

どんなに炎上を防止しようとしても、全くトラブルに見舞われない会社組織というものはあり得ません。

もちろん、防止することが最も重要ですが、それでもトラブルに見舞われた場合には、そのトラブルをいかに小さく収束させるかがリスクマネジメントの要諦です。

この「小さく収束させる」ためのポイントが、「拡散」そのものをいかに止めるか、ではなく、「拡散」の再生産をいかに生じさせないか、にあるわけです。それを最も確実に実現する方法が、以前の記事でご紹介した銀行の事例です。(記事中の「ネット炎上への対処は迅速性が大切」の項を参照してください。)

 

この銀行の事例では、きっかけ事案が17時に発生したのに対し、銀行側がその日の22時に公式ステートメントを発表して収束をしました。webメディアや新聞、ワイドショーなどが動き出したり、ネットユーザーが関連事項をほじくり返して騒ぎ出す前に、迅速に収束させた、つまり、「拡散」の再生産が生じる暇を与えなかったわけです。

先の記事でもお話しした通り、これを実現するためには、普段からのリスクマネジメント体制の構築が非常に重要です。