ソーシャルメディア時代のリスクマネジメント

ソーシャルメディア関連を専門とするリスクコンサルタントが、企業のリスクマネジメントについて書いています。

「ネット炎上」において「拡散」は必然なのか

前回は、ネット炎上における「拡散」がどのような経路で発生するのかについてお話をしました。

今回は、「炎上」と言われる現象においては「拡散」を伴うものと伴わないものがあり、その違いはどうして生じるのかについてお話していきたいと思います。

このことを前提とせずに何となく「ネット炎上」というものを一括りにしてしまうと、ネット炎上の本質が捉えきれず、結果として対策や対応が的外れになってしまうので、非常に重要なトピックだとご理解ください。

 

Twitterでの「拡散」を伴わないネット炎上

前回の記事でも簡単に触れましたが、ネット炎上においては、2011年を境にTwitterでの「拡散」という現象が一般化しました。

それまでのネット炎上は概ね、

 

  1. 2ちゃんねるにスレッドが立ち、叩かれる。
  2. 攻撃対象となる人が開設しているブログのコメント欄に大量の非難・批判が寄せられる。

 

の2パターンだったため、「拡散」という現象そのものが成り立ちにくかったわけです。

(いろんな人のブログで記事にされる、という、マイルドな「拡散」は存在しましたが。)

 

この2パターンのうち、「1. 2ちゃんねるにスレッドが立ち、叩かれる。」については、2014年の転載禁止措置や運営上のトラブルなどに伴い、2ちゃんねる(現在は名称が変わり「5ちゃんねる」)自体、現在はかつての勢いが失われています。

2000年代には「炎上といえば2ちゃんねる」でしたが、現在ではそのような文脈からは大きく離れた存在であることを、対策の際の念頭に置くべきでしょう。(ただし、ネットのリスクマネジメントにおいて全く無視して良いということではないので、注意は必要です。)

 

他方、「2. 攻撃対象となる人が開設しているブログのコメント欄に大量の非難・批判が寄せられる。」については、主に芸能人ブログなどで今日でも発生しています。

たとえば、元モーニング娘。の辻希美さんは、自身のブログに何を書いても批判コメントが寄せられることでよく知られており、三日と空けずにネットメディアが報じています。

辻希美、スーパーで買い物撮影して大炎上「禁止されてるのに非常識」 - デイリーニュースオンライン

辻希美“選挙に行った”アピールで批判されるも、以前から習慣だった 思い出されるモー娘。のヒット曲 - エキサイトニュース

 

このように、コメント欄に大量の非難や批判が寄せられる現象を「コメントスクラム」と呼びます。

 

なお、「コメントスクラム」が発生してネットメディアに上記のような記事が掲載されても、「拡散」が発生するとは限りません。コメントスクラムはあくまでコメント欄というローカルな場所においての現象であり、Twitterなどで非難・批判の論調が「拡散」するかどうかは全く別の問題です。

辻希美さんのブログについても、多くの人は芸能ゴシップの1つとして生暖かく見守っているだけなので、ネット炎上における「拡散」に当たる現象はほぼ発生しません。

このように、「拡散」という現象が伴わずコメント欄が荒れるだけの現象についても「炎上」という言葉で表現するのが現在の用例として一般的ですが、「拡散」を伴う炎上と伴わない炎上では、企業における実務の面から考えると全く異なる対処が必要ですので、区別して考える必要があります。

 

企業の実務として考えるコメントスクラム

ちょっと前までは、公式ブログでコメント欄を設けていた企業も一定数ありましたが、現在はそれに代わって、Facebookページ、YouTube公式チャンネル、InstagramTwitterの公式アカウントなどを設けている企業の方が圧倒的に多数です。これらにも、コメント欄がありますし、そこに非難や批判が書き込まれることもあるでしょう。

もちろん、単に非難や批判が書き込まれるだけならば、それは「炎上」とは言いません。おそらくほとんどの企業で公式アカウントを開設する際に、個別のコメントに対してどのように対応するかのルールを定めていると思いますので、そのルールに則って粛々と対応することになると思います。

問題は、そのような個別の対応の範囲を超えて、コメント欄に大量の非難や批判が寄せられる「コメントスクラム」の状態になった時にどうするのか、ということです。

 

コメントスクラム状態になった場合に、まず確認すべきことは、その非難や批判がTwitterで「拡散」に至っているかどうかです。

先に例として挙げた辻希美さんのブログのように、コメント欄では非難の嵐でもTwitterでは一切波風が立っていない、ということもあります。「拡散」の有無によって、企業側としての対応は異なります。

 

ケース①:Twitterでの「拡散」が伴っていない場合

 

コメントスクラムだけ発生して、「拡散」が発生しないという状況は、芸能人のブログやTwitterアカウントなどではよく発生するのですが、企業アカウントについてはあまり発生しません。ただ、全く発生しないわけではないので、可能性の1つとして念頭に置いておく必要はあります。

例えば、水族館や動物園などのような生体展示を行う施設の公式アカウントに対して、ある時一斉に動物愛護関連のコメントが数千、数万単位でつけられたりすることがあります。そのようなとき、もちろんTwitterで「水族館(or 動物園)は狭い場所に生き物を閉じ込めていてけしからん!」という話が「拡散」しているかというと、平常時と変わらない(皆無ではないけれど、普段より急激に増えているということでもない)状態であったりします。

 

このような場合には、コメントスクラムの内容が対話可能な種類の話であるかどうかを見極め、触れずにおくのか、当該公式アカウントで何らかの声明を発表するのか、それともコメントスクラムのコメントを非表示にする(プラットフォームによってそういった機能の有無が異なります)のかを検討しなければなりません。

いずれにしても、そこでの対応を誤った場合にはTwitterへの「拡散」に発展する可能性がありますので、ネガティブな「拡散」が生じないように配慮することが重要です。

 

なお、現在のところTwitterのリプライは、リプライをつけられた側では非表示にすることはできないのですが、それが今年の6月から可能になる予定である旨が発表されたようです。

Twitterが不要なクソリプを自分で隠せる「ツイートを隠す」機能を2019年6月にもリリースすると予告 - GIGAZINE

 

また、「拡散」を伴う場合でも、以下の2パターンに分けて考える必要があります。

 

ケース②:Twitterでの「拡散」が先にあって、その後にコメントスクラムが発生している場合

 

例えば、Twitter上で特定の企業の何らかの言動に対しての非難・批判の声が高まり、いわゆる「炎上」に至った場合、それに関して企業側に直接的に考えを問う人が一定数現れます。

それが電話で行われる場合は「電凸」と呼ばれるわけですが、電話やメールといった手段でなく、企業の公式アカウントに対するコメントという形で行う人もいます。Twitterでの「拡散」が先にあって、その後にコメントスクラムが発生している場合、そのような状況が典型として考えられます。

 

このような場合、コメントスクラムはそれ自体が「炎上」なのではなく、「炎上」を構成する一部の現象でしかありません。このため、コメントスクラム自体をどうするか、ではなく、何が原因で炎上が発生しているのかを見極め、全体像を把握して対処に当たらないといけません。

 

ケース③:Twitterでの「拡散」よりも先にコメントスクラムが発生している場合

 

今どき非常に稀なケースですが、コメント欄が「コメントスクラム」と呼ぶべき状態にまでなってから、それが元となって「拡散」が生じる、ということもあります。

例えば、Facebookページ上に企業がアップしたコンテンツに倫理上の重大な欠陥があり、フォロワーから多数の批判が寄せられたにもかかわらず企業側が放置した場合などは、「直接言っても聞き入れないなら、拡散させてやる」とユーザーが考え、Twitter上に「【拡散希望】」として告発する、というような状況が典型として考えられます。

ただ、それで本当に「拡散」に至ってしまうような致命的な問題を、コメント欄で非難・批判されても放置するような企業は、炎上に対して向き合う姿勢がそもそも出来ていないと思いますので、事ここに至って慌てたとしてもおそらく処置のしようが無いと思われます。(なので、ここでは論を省きます。)

 

受忍すべきでないコメントスクラムについて

ここまでは、コメント欄に寄せられたコメントスクラムの内容が当を得たものであり、企業側としても傾聴をすべきもの(実際に受け入れるかどうかは別として)であることを前提に論を進めてきました。

が、なかにはただの嫌がらせ目的であったり、事実無根なデマであったり、というコメントスクラムも存在します。人によってはたくさんのアカウントを1人で利用し、多数の人が非難・批判を書き込んでいるかのように装う場合もあります。

(参考:平子理沙が中傷被害「自殺しろ」ブログに悪質投稿 - 日刊スポーツ

 

このような、非難・批判の限度を超えた行為に対しては、場合によって企業は毅然とした対応をしなければなりません。

もちろんこれはコメントスクラムに限定した話ではなく、ネット上の書き込み全般について言える事です。

それを考える上で、前提として「ネットリンチ」という概念を理解しておくと整理がしやすいので、次回は「ネットリンチ」についてお話ししたいと思います。

 

今回はここまで。