ソーシャルメディア時代のリスクマネジメント

ソーシャルメディア関連を専門とするリスクコンサルタントが、企業のリスクマネジメントについて書いています。

ネットリンチの実像と対策

前回は、ネットリンチとネット炎上の違いについてお話をしました。

ネットリンチは、それを行う人の主観では「制裁」であり、人をネットリンチに走らせるのは処罰感情を暴走させる情動のバグである、と結論しました。

 

なぜ「バグ」という表現を使ったのか。それは、ネットリンチという行為が全く以って正当性を有していないにもかかわらず、その行為を行なっている本人たちは正しいことであると考えているという、主観と実態の認識の大きな乖離があるからです。

今回は、ネットリンチにおける「主観と実態の認識の乖離」を通して、ネットリンチの実像と、企業における対策についてお話していきたいと思います。

 

実例に見るネットリンチ参加者像

2017年頃を中心に、ある匿名ブログでの呼びかけがきっかけとなって、複数の弁護士に対する懲戒請求が弁護士会に大量に送りつけられるという問題が発生しました。

その後、この懲戒請求が不当であることが20194月に裁判で認められ、懲戒請求を行なった者に対する個別の損害賠償請求が認められました。

不当懲戒請求「余命読者」6人に支払い命令、個別の損害認める 弁護士2人が勝訴 - 弁護士ドットコム

余命ブログの懲戒請求裁判、判決を分析 - 弁護士ドットコム

 

一連の経緯については、NHKのクローズアップ現代+でも取り上げられたので、そちらの公式まとめ記事をご参照ください。

なぜ起きた?弁護士への大量懲戒請求 - NHK クローズアップ現代+

 

上記クロ現+の記事にもあるとおり、ブログの呼びかけに乗せられて事実関係を十分に確認しないままに懲戒請求を送った人々の属性について、NHKの取材の結果、以下のようなことが分かったとされています。

懲戒請求したおよそ1,000人をNHKが独自に調べたところ、住所などが判明したのは470人。全国各地に広がっていました。平均年齢は55歳、およそ6割が男性でした。公務員や医師、主婦や会社経営者など、幅広い層にわたっていたことが分かりました。

こういうことをするのは、引きこもりのニートや、ネットばかりやっているオタクだという偏見がまだまだ根強いのですが、意外に平均年齢も高く、「公務員」「医師」「企業経営者」といった、ホワイトカラー層も含まれていることが判明しています。

 

逆に、ニートについては、最近別な記事で以下のような指摘がなされています。

中高年のひきこもりでは、1日、何もしていない人が半分ぐらいいます。ベッドで横になったり、ソファに座っていたり。頭の中でいろいろ考えて葛藤しているから、退屈は感じないそうです。部屋に籠ってネットやゲームに没頭している印象を持たれがちですが、それは実は少数派。ひきこもっている人は自責的になっており、自分には娯楽を楽しむ資格はないという思いがあるようです。

「中高年ひきこもりは自己責任か?」精神科医・斎藤環が予測する「孤独死大量発生」時代 | 文春オンライン

つまり、社会生活を送っている普通の人々が

「決して自分が悪いことをしている意識はない。俺いいことやっているんだと、ある種の高揚感みたいなものも当然あったし。」(上記クロ現の記事より)

という意識で、このような行為を行なっているわけです。

 

なお、これを「ネットリンチ」の例と考えた場合、「ネットに書き込んでいないじゃないか」という反論がありそうですが、「正誤の分からないネットの情報を鵜呑みにして、逸脱者(と、彼ら彼女らが考えた相手)に制裁を加える」という意識の在り方はネットリンチそのものですので、ここで取り上げました。

 

ネットリンチに対処する上で重要なこと

企業がネットリンチに遭ってしまった場合、対策を考える上での前提は、2パターンに分かれます。

 

  1. 根も葉もないデマや根拠の無い話がベースになっている場合
  2. きっかけとなった問題は確かに真実だが、炎上がヒートアップしてバッシングがエスカレートしてしまった場合

 

「1.  根も葉もないデマや根拠の無い話がベースになっている場合」は、先に挙げた懲戒請求のケースが典型です。

懲戒請求は弁護士個人に対するものですので、企業に対してこんなことが起きるものなのかと訝しく思う方もいらっしゃるかもしれません。ですが、古くは、「マクドナルドのハンバーガーのパティはミミズの肉を使っている」とか「ケンタッキーフライドチキンの鶏は化学的な品種改良がされていて足が6本ある」など、びっくりするほど根も葉もない噂が立つこともあるわけです。

このため、デマは企業にとっても対岸の火事ではありません。

 

このようなデマに対して如何に対処すべきかは、以前の記事に詳述いたしましたので、そちらをご覧ください。

「デマ」リスクに対する備え - ソーシャルメディア時代のリスクマネジメント

 

他方、「2. きっかけとなった問題は確かに真実だが、炎上がヒートアップしてバッシングがエスカレートしてしまった場合」については、対処のタイミングの見極めが非常に難しいです。

あまり本質的ではない点について反論したり否定したりすると、逆に炎上が加速します。このため、許容できるもの・できないものの見極めをシビアにおこなわなければなりません。

また、炎上の最中にデマに対処するのか、炎上が鎮火してから個別に対処するのか、という判断も必要になります。

対処の仕方についても、ネットの書き込みに対する削除依頼をするのか、個別の書き込みに対して対処するのではなく、噂を否定するようなコメントを発表するのか、これも状況によります。

このように、「2」は「1」に比べ、状況判断が非常に難しいため、平時から様々な状況を想定しておかないと場当たり的な対処に陥ってしまい、かえってトラブルを大きくしてしまいかねません。

 

上記「1」にしても「2」にしても、当然、紛争対応の専門家である弁護士に相談することが重要でしょう。

とはいえ、判断の全てを弁護士に丸投げするという姿勢は決して褒められるものではありません。

トラブルが発生する前に、上記のような想定をしながら、判断の線引きを社内でよく検討し、関係者間で共有することが重要です。