ソーシャルメディア時代のリスクマネジメント

ソーシャルメディア関連を専門とするリスクコンサルタントが、企業のリスクマネジメントについて書いています。

レピュテーションにおいては、炎上だけがリスクなのか

本ブログでは、ソーシャルメディアに関連するリスクに対して、企業がいかに対処すべきかについてお話をしていますが、多くの企業にとって「ソーシャルメディアに関連するリスク」として関心が集中しがちなのがネット炎上でしょう。むしろ、ネット炎上以外のソーシャルメディアに関するリスクについては、あまり気にしていない企業の方が多いかもしれません。

 

ですが、ソーシャルメディアに関連するリスクは、他にもいろいろ存在します。

ネット炎上は、その「いろいろ」の中の、レピュテーションに関するリスクの一つです。つまり、レピュテーションに限定して考えた場合でも、ネット炎上以外にもいろいろと考えるべきことがあるということです。

 

今回は、炎上以外でどんなレピュテーション上のリスクがあるのか、お話ししていきたいと思います。

 

騒ぎにならなければOK

レピュテーションリスクというと、「不祥事などが起こって、企業の評判が落ちる」という現象にフォーカスしがちです。なんらかの不祥事が起きた場合に、それをマス媒体やネットなどを通じて多くの人が知り、企業としての信用や信頼を失う、というのが最もスタンダードな理解ではないでしょうか。

ですが、このようなフォーマットで理解をしていると、「騒ぎにならなければOK」という発想に陥りがちです。

この「騒ぎにならなければOK」という発想の問題点は2つあります。

 

1つめは、騒ぎになるまで対処を先送りしてしまうという問題。騒ぎになってしまえば確実にダメージを受けるので、本来ならば騒ぎになる前に手を打たなければなりません。ですが、「騒ぎにならなければOK」という思考では、「騒ぎになるまでは放置」という思考停止に容易につながってしまうので、効果的なリスクコントロールがされにくくなります。

 

2つめは、そもそも「騒ぎにならなければOK」という認識が誤っている、という問題。

「騒ぎ」にならなくても、深刻な影響(「信用や信頼を失う」ということ)が自社に及ぶ場合があります。

 

この2つめの問題については、具体的なイメージをしやすいように企業の求人活動を例にして、下記で掘り下げていきたいと思います。

 

まず、企業が新卒採用や中途採用で人材を確保しようとした場合、当然ながら優秀な人材に集まって欲しいと考えるわけですが、その「優秀な人材」は自身が入社すべき企業をどのように見極めているのでしょうか。

 

ひとつのケーススタディとして、地方創生ビジネスの現場に詳しい木下斉さんの記事から引用します。

人手不足を嘆く地方の組織が陥る「4つの矛盾」 | 地方創生のリアル | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準

そもそも、今はインターネットも発達し、全国での求人情報に簡単にアクセスして相互評価できるようになり、圧倒的に働く側のほうが優位に立っています。地方ではこうした事態に気づいていないか、気づいていても放置しているので、「選択されない職場」が増加しているということです。

 

 端的に言えば、どんな企業に就職すべきなのか、ということは、優秀な人材ほど情報収拾をして慎重に意思決定するわけです。

その際、上記引用にもあるとおり、主戦場となるのはインターネットです。

もちろん、個人的なネットワークを使って評判を収集することもあるでしょう。ですが、いくら顔の広い人でも、個人的なネットワークだけで得られる情報には限界があります。

そこで用いられるのがインターネット上の情報です。特に、情報リテラシーの高い層(ホワイトカラーとして優秀な層が多く含まれると考えて差し支えありません)ほど、玉石混交なネット上の情報の中から、信じるに値する情報を見極めて、意思決定に役立てている可能性が高くなります。

この「情報」こそが、「レピュテーション」です。

 

このようなレピュテーションは、ネット炎上には至らずに、インターネットの片隅でひっそりと情報交換が行われているケースがほとんどです。

その筆頭が、企業に関するクチコミサイトです。(企業の人事採用担当の方はみなさんご存知だと思いますが。)

新卒向けであれば「みん就」、中途採用であれば「転職会議」「キャリコネ」「カイシャの評判」などでしょう。

また、このようなクチコミ専門のサイトだけでなく、「2ちゃんねる」(現在は「5ちゃんねる」)などのネット掲示板を参照することもあるでしょう。

そのほかにも、企業名+「評判」というキーワードでググることも定番です。

 

このような形でやり取りされる情報(=レピュテーション)が求職者に影響を与えているのであれば、「騒ぎ」に至らずともレピュテーションリスクとして考えなければなりません。

 

また、最近のトレンドとしては、退職エントリーというミームも無視できません。

 

退職エントリーの影響力

退職エントリーとは、自身が退職するに至った経緯や理由などについて詳しく記載するブログの記事のことを指します。

退職エントリとは?|なぜ退職エントリを書くのか、その傾向を調べてみた | HR NOTE

 

退職エントリーは、上記のリンク先にも記載があるとおり、様々な動機に基づいて書かれます。

そういった退職エントリーの多くは、ネット炎上にはつながりません。が、一定の層の中で広く読まれることになるケースも多々あります。(こういう現象を「バズる」などと言ったりします。)

 

これらの退職エントリーは、退職した企業を告発するような内容であることは多くありません。(告発するような内容であれば、それは「退職エントリー」というミームとは別のものだと考えた方が良いでしょう。)

退職エントリーはむしろ、退職を「発展的解消」と位置付けて、退職した会社に対する感謝とともに分析的に述べている記事の方がウケが良く、「バズる」ことが多いようです。そのような記事の多くは、1つ1つは決して、その対象となっている企業にマイナスのイメージを与えるようなことはありません。記事に記載されている内容が基本的に個人的な話だからです。

ですが、そのような退職エントリーが、特定の企業に関して複数の人から続けざまに投稿されたらどうでしょうか。いかに前向きなトーンの記事であっても、それを複数重ね合わせて読めば、その企業の構造的な問題が浮かび上がってくるかもしれません。

 

実際、ある企業(日本では知らない人のいない巨大企業グループです)を退職した人による退職エントリーが今年に入って相次ぎました。

そこでは、年功序列的給与体系や決裁の遅さに対する不満が述べられ、対して、転職先の外資系企業における高い俸給や働きやすさなどが述べられていました。

これを受けて一部の人の間では、日本企業と外資企業の格差として論じられたり検証されたりするに至りました。

このことは、炎上というわけではないので、マスメディアで大々的に取り上げられるようなことはありませんでした。このため、広い範囲で情報が知れ渡るということにはなりませんでしたが、情報感度の高い層にはほぼ確実にキャッチアップされていたと思われます。つまり、まさにその企業が求人の対象としたい層に対して、この一連の退職エントリーや、それに対する検証記事などが十分に知れ渡った状態であったと考えられます。

この影響か、その企業の新卒採用に対する応募が例年に比べて捗々しくないという噂も聞こえてきました。(あくまで噂で、真偽は未確認です。が、そのような噂が立ってしまうこと自体、レピュテーションの悪化と言えるでしょう。)

 

だからといって、退職エントリーを退職者に禁止するというような短絡的な対処法では、問題は解決しません。ソーシャルメディア時代である現在、人の口には戸を立てられません。

レピュテーション対策は、レピュテーションリスクを分析し、レピュテーションの原因になっていることに手を打つことが最も優先されるべき事項です。

 

退職者が何を不満として退職したのか。そもそも、退職したのは誰なのか。内容は事実なのか。

そういった検証を行った上で、ドライな言い方をすれば、退職エントリーに記載されているような理由で辞める者が、自社にとって必要な人材であったのか、不要な人材であったのかを考えなければなりません。

もし必要な人材が退職してしまう理由になっているのであれば、その問題を解決しなければ、次に同じような人材を採用してもまた退職されてしまいます。

 

もちろん検討の結果として、「ネットの情報に判断を左右されるような人間は自社の人事運用において使いづらいから不要である」という判断もあるかもしれません。

ただ、その場合も、それによって失われる機会と得られる効用を衡量した上で判断されるべきで、手をこまねいた結果として、または「これまでこれでやってきたんだから」というようなバイアスの結果として、なし崩し的に現状を追認するというのは下策です。

 

ソーシャルメディア時代におけるレピュテーションへの向き合い方は、社内の改善活動に対する重要なインプットの一つとして扱うことから始まると考えましょう。